叶内拓哉の野鳥撮影カレンダー

季節ごとの"野鳥の撮り方"を詳しく紹介!

3月のテーマ
花蜜を好む小鳥たちをサクラの花と絡めて撮ろう
写真・解説:叶内拓哉(野鳥写真家)

このサイトの写真はPROMINAR 500mm F5.6 FLで撮影しています。(一部除く)

写真:メジロとサクラの写真

サクラの花が咲く季節になると、花蜜を求めてメジロをはじめ、さまざまな野鳥がサクラの木にやってきます。枝先にとまった鳥たちは、花の中へくちばしを差し込んだり、花の子房を突き差したり、切り取ったりして蜜を吸います。こちらの花からそちらの花へと枝の上を行き来し、くちばしや顔が花粉で黄色く染まるのもかまわず、一心不乱に花蜜を吸います。

普段は枝から枝へ素早く移動するメジロやシジュウカラなどの小型の鳥も、花をつけたサクラの木に来ると、同じ場所に留まる時間も長くなります。そのため、サクラが咲く時期は、動きの機敏な鳥たちを撮影する絶好のチャンスだといえます。

サクラの花と絡めて狙えるのは、メジロやヒヨドリ、シジュウカラ、スズメ、イカル、シメなどです。意外なところでは、虫を好むと思われるコゲラ、今は野生化していますが元々はかご抜け鳥のワカケホンセイインコもサクラの花を目当てにやってきます。

鳥が好むサクラの種類や花が咲く時期を知る

写真:オオカンザクラにとまるシジュウカラ オオカンザクラにとまるシジュウカラ。くちばしが短く、花に顔を突っ込んでも蜜を吸えないためか、花の横から子房に穴を開けて密を吸います。そのため、花を落としてしまうことがあります。PROMINAR 500mmF5.6FL+TX10(500mm)で撮影。

サクラの花が咲けば、どんなサクラにも野鳥が来るかというと、必ずしもそうではありません。サクラには様々な種類があり、野鳥が好むサクラと必ずしもそうでないサクラがあります。野鳥が好むサクラを選ばないと、いくら花の下で待っていても野鳥を撮ることはできません。

野鳥が好むサクラは花蜜の多い種類です。ソメイヨシノ(染井吉野)やカワヅザクラ(河津桜)、オオカンザクラ(大寒桜)など、花が一重(ひとえ)のサクラは、花弁の枚数の多いヤエザクラ(八重桜)やボタンザクラ(牡丹桜)などに比べて花蜜が多い傾向があります。また、一重でもヤマザクラ(山桜)は花蜜が少ないので、野鳥の姿は少なめです。まったく来ないことはありませんが、花にくちばしを差し込み、蜜を吸う姿は一重のサクラでより多く見られます。

サクラの花期は種類によって異なります。先駆けとなるのが2月から3月上旬までと花期の長いカワヅザクラ。伊豆半島のものが有名ですが、全国各地(主に植物園や公園など)に植えられているので、各地で楽しめます。次に咲くのがカンヒザクラ(寒緋桜)。沖縄で1月に咲くことで知られていますが、本州の関東以南でも観賞用に植えられており、2月下旬には咲き始めます。その後を追うようにカンザクラ、オオカンザクラが咲きます。これらの早咲きのサクラが終わるころ、ようやくソメイヨシノが咲き始めます。

サクラは、その場所の緯度や標高によっても花期は変わりますが、概ね2月から4月の中旬(地域によっては5月上旬)まで、次々と咲いてゆきます。野鳥をサクラの花と絡めて撮るときは、サクラの種類と開花時期を知ることも必要です。

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2~5分咲きの時期が最良の撮影のタイミング

写真:ソメイヨシノの花芽をついばむイカル ソメイヨシノの花芽をついばむイカル。アトリ科の鳥は花蜜を吸うのではなく、開花前のつぼみを丸ごと食べます。TSN-884 PROMINAR+TSN-PA6(600mm)で撮影。

もっともポピュラーなサクラであるソメイヨシノは、開花から1週間ほどで満開になります。満開から1週間ほどは見ごろが続きますが、散り始めるとあっという間に葉桜になってしまいます。当然、野鳥を撮るタイミングも満開の時期にと考えがちですが、満開になると鳥の姿が花に隠れてしまうこともあり、野鳥を主役に狙うならば2~5分咲きの頃に撮るのが最適です。

サクラが咲き始めたら、いよいよ撮影です。サクラに集まる野鳥を撮る場合、とまる木が事前にわかるので、待ち構えて撮るようにします。何本もサクラがある場合は、しばらく観察して、頻繁に野鳥が飛んでくる木を選びます。また、いくつもの木をハシゴしながら花蜜を吸うことも多いので、次にどの木に移るのか、鳥の動きを予測して回り込むこともできます。

野鳥がとまる枝を決めておけば、予めピントを合わせておき、画面に鳥の姿が飛び込んできたところを撮影できます。露出は鳥の体や木の幹などで測れば、特に補正する必要はありません。まず1枚撮り、液晶モニターで再生して画像の明るさを確認します。もし、鳥の姿が暗すぎるようであれば、+1段までの範囲で補正します。

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落ちた花の食痕を見て野鳥の種類を知る

写真:サクラの食痕 ワカケホンセイインコの食痕
かご抜け鳥のワカケホンセイインコもサクラの花を食べます。特徴のあるくちばしで食いちぎるため、花の根元が斜めに切れています。

サクラの木に来る鳥の種類はさまざま。採食の仕方も鳥によって異なるので、食べ跡を見ればどんな種類の鳥が来るのか判断できます。メジロやヒヨドリ、コゲラは花にくちばしを差し込み、舌の先で花蜜をなめます。そのため、花を散らしませんが、シジュウカラやスズメは花をちぎり取って花の蜜を吸うため、木の下に花が落ちます。

落ちている花の食痕を見ると、どんな鳥が花をついばんだかわかります。シジュウカラは花柄(花の基部につながっている部分)をくちばしでちぎり取り、趾(あしゆび)で押さえ、子房(雌しべの下部のふくらんだ部分)に穴を空けて花蜜を吸います。落ちている花に穴が空いていればシジュウカラがやって来たということになります。

スズメやニュウナイスズメもサクラの花蜜を好みますが、花を食いちぎるため、萼(がく)ごと木の下に落ちます。また、イカルやウソなどのアトリ科のなかまは花芽そのものを食べるため、開花前の花がなくなっていたら、彼らがついばんだと考えられます。

シジュウカラの食痕
子房(雌しべの下部のふくらんだ部分)に穴を空けて花蜜を吸うため、落ちている花の側面に穴が空いています。
スズメの食痕
花の子房の部分をつぶして花蜜を吸い取るため、花は根元から食いちぎられた状態で落ちています。

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サクラの季節には花に集まる小型の鳥を撮ろう

写真:サクラの食痕 スズメもサクラの花が咲くと蜜を求めてやって来ます。満開となると鳥が花に隠れてしまいますが、写真のように2~3分咲きであれば、鳥の姿をしっかりと撮ることができます。TSN-884 PROMINAR+TSN-PZ(680mm)で撮影。

メジロやヒヨドリが花蜜を吸う姿は愛らしく、絵になります。また、花に集まる虫を狙う鳥たちもサクラの木を訪れるため、サクラの前でカメラを構えていると、入れ替わり立ち替わり小型の鳥がやって来ます。この絶好の機会を逃さず、春らしい野鳥写真の撮影に挑戦してみましょう。

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