フローライト・クリスタル

フローラライト・クリスタル

蛍のように光ることから蛍石(ほたるいし)と呼ばれる石があります。熱したり紫外線を当てたりすると光る不思議な石です。これがフローライト(Fluorite)です。
化学的にはフッ素(F)とカルシウム(Ca)からなる安定したハロゲン化鉱物(CaF2)ですが、天然に存在するものにはごく微量の希土類元素が含まれているため石の色は緑色や紫色を帯びており、熱や紫外線で蛍光を発します。
レンズとして使用されるフローライトは人工的に作られた単結晶(クリスタル)です。そのため不純物が全く含まれておらず熱や紫外線で蛍光を発することもなく、均一で無色透明なレンズ材料となります。化学的にも安定しており、比較的大きく良質な結晶が得やすいという特徴を持っています。しかし、フローライトは単結晶であるため、正八面体で欠けやすいという性質も持っており、さらに傷がつきやすいため、レンズとして仕上げるには加工の際に細心の注意が必要となります。
そんな加工の難しいフローライトをなぜ光学材料として使用するのでしょうか?

望遠鏡の見え味を劣化させる大きな原因に色の滲み(色収差)があります。光の屈折の度合いは色(波長)によって変化します。その度合いを「分散」と言います。
そのためレンズのピント位置は色によって異なり、像の輪郭に赤や紫の滲みが発生します。そこで通常は2種類以上の「分散」の異なる光学ガラスを組み合せ、色の滲みを軽減させます。しかしどんな高級な光学ガラスを使ってもこの滲みは取りきれません。この色の滲み除去の切り札がフローライトなのです。フローライトには光学ガラスにはない「超低分散性」という優れた特徴があり、この特性を利用すれば色の滲みを殆ど除去することができます。滲みがなくなれば当然分解能力やコントラストも劇的に改善されます。野鳥の微妙な羽の色や形、逆光での暗影部の僅かな色の変化、明るい星団、月や惑星の細部を忠実に観察でき、今まで達し得なかった領域まで踏み込むことが可能となるでしょう。 光学ガラスに比べ遥かに扱いにくいフローライトは、非常に高度な加工技術を要求します。興和は独自の技術により細心の注意を払いながら時間をかけて生産しています。惜しみ無くつぎ込まれた手間と時間が、最高の見え味を約束してくれるのです。

XDレンズとはED、SD、UDやLDとも呼ばれる特殊低分散光学ガラスで、フローライト・クリスタルの代替材料として開発されたものです。フローライト・クリスタルほどではありませんが色収差を軽減することができます。なお、「フローライト」という言葉は、結晶ではなくフローライト成分を含んだ光学ガラス(フローライト・ガラス)に使用される場合もあります(TSN-773/774に使用しているXDレンズはフローライト・ガラスです。)が、KOWAは本物のフローライト・クリスタルにのみ「フローライト」の名を冠しています。

一般の光学ガラスと蛍石の光学特性の違い

色収差の補正状況比較